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春の日は、風よりかるい服を着る。──素材編 2

●誕生の起源は、海。

Tシャツの誕生にはたくさんの神話があります。次の3つの中に真実はあるでしょうか?

1]中世の兵士たちが身につけた麻素材のシャツという説。

2]貴族たちが高価な衣服を汚さないよう皮膚との間に着たリネン素材のシャツという説。

3]1880年ごろ、綿ネルと呼ばれる素材を使ったアメリカ海軍の制服は、Vネックタイプのジャージで、
  やがて四角い襟元にボタンがついたものに変わった。これがTシャツの原点、という説。

それでは、真実をひも解く前に、
Tシャツが長らく下積み時代を過ごした、
男性下着売り場へと、みなさまをご案内いたしましょう──。

●下着時代。

気取らないTの形をした綿の筒は、
男性用の下着売り場からその歴史をスタートさせました。

当時Tシャツは、伸縮性がよく動きやすい、
──柔らかく体を包み込む心地よい肌着、として評判を得ていました。

Tシャツの肌着としての心地よさはその製造方法にも秘密があります。

1863年に特許取得された編物機械の出現で
下着分野では「編み」のジャージが一般的となり
19世紀の終わりにはシャツのような「織り」の布は消えていったのです。

このジャージ(編物素材)が快適さを生み、
そして、皮膚にいちばん近い存在であったことが、
下着の未来を切り拓くきっかけになったとも言えます。

●船乗りたちの神話。

男性用下着が上着へ進化する過程には、戦争との接点がありました。

Tシャツの最初の出発は、
1913年、アメリカ海軍が広めた
「半袖、丸首(襟なし)」のものといわれています。

それは、従来の船員が着ていたものよりも軽く、
乾かすのに時間がかからない、
船内での重労働に最も適した服、として
扱われるようになります。

そして、このオフィシャルな肌着は、
重要な行事や、上陸許可が出された場所でも
着られるようになっていきました。

Tシャツという上着の誕生です。

●快適性という素材。

Tシャツは長い下働きの時代を終え、
洋服売り場へと昇進を果たしたわけですが、
そもそもTシャツに求められていたものはより軽く、
短時間で乾燥する素材としての快適性でした。

ではここで、素材について少しふれておきましょう。

◎綿の花
厳密に言えば、綿とは、カプセル状の実の中にある
種を包み込む、長い毛足を持った繊維のことを指します。
綿は花が咲き終わると、約50日間で実に熟し、
綿毛で覆われた種と皮がそのまわりにできあがり、
それが柔らかい繊維質の綿となります。

◎糸
短い不良部分を15〜20%程度取り除いた糸をコーマ糸と呼びます。
綿花の未熟な部分を櫛がけすること(コーマ通し)で、
長い繊維だけが平行に揃えられるため、
やわらかくて肌触りがよい、高品質の糸になります。
日本でつくられるTシャツはコーマ糸を使ったものが多く見られます。

コーマ通しにより不良部分を約10%取り除いた糸をセミコーマ糸といいます。
コーマ糸と比較すると若干ラフな風合いになります。

不良部分を約5%ほど取り除いたカード糸は、
コーマ糸に比べると色つやがなく、ゴワゴワした肌触りになります。
しかし、このラフな風合いとへたりにくい強さがアウター向きといわれるゆえんです。
アメリカ製のTシャツはこのカード糸を使ったものが多く見られます。

一説によりますと、一枚のTシャツを製造するのに、
長さ約10キロメートルもの糸を要するのだそうです。

また近年、綿糸を撚る際に右撚り(S撚り)と、左撚り(Z撚り)を
一定間隔で交互に入替えたSZ糸を用いることで、
洗濯後生地が一方向にねじれやすい、斜行を抑える技術も生まれています。

●時代を編む素材。

もし軍隊がTシャツを男性用下着から上着へと進化させることがなかったら、
その役割はスポーツ界が担っていたかもしれません。

Tシャツのようにカジュアルで、体の動きに自由を与えるジャージ素材は、
チームのユニフォームやトレーニングウェアにも多く活用されています。

代表的な編み方を二つ紹介しましょう。

◎天竺編み
平編みの別称で、ジャージ・ステッチと呼ばれます。
適度な伸縮性があり、体にフィットするのが特徴で、
ほとんどのTシャツは天竺編みで作られています。

◎フライス編み
ゴム編みとも呼ばれ、天竺編みよりも一層伸縮性に富み、
衿や袖口に使われることが多い編み方です。

Tシャツはなんといっても「綿100%」が基本。
ところが、ジャージ素材ゆえの可能性を
スポーツ界は見逃しませんでした。
ハイテク素材との出合いが、新しい子孫を残します。

ライクラという化学繊維は、
筋肉を完全な流線形にパッケージします。
それは、100分の1秒をあらそう過酷な競技のために、です。

クールマックス(同じく化学繊維)は、
Tシャツの体温調節という機能をさらに進化させました。

記録に挑戦し続けるスポーツの分野でTシャツは、
機械のような肉体を包み込む第二の皮膚に変貌していったのです。

●Tシャツはどこへ行くのか?

いまやTシャツは表面を飾るだけの存在ではありません。
外部の攻撃から身を守る「うすい鎧」にもなりうるのです。
健康や安全へ感心を示すようになった現代の、
猛烈なスピードの技術革新に対応した事例を、最後にお伝えしましょう。

日本のメーカーG社は、「ペースプロテクター」というシャツを発表。
携帯電話などの電磁波からペースメーカーをつけた人々を守るという。
シルバー色のナイロン糸で編んだ生地は、有害紫外線の92%をブロック。
(現在は、変色と機能低下を理由に販売中止)

またF社は、ビタミンCが注入されたTシャツを開発。
肌に触れると、レモン2個分という驚くほどの量のビタミンCを放つ革新的な繊維。

アメリカで開発されたスマート繊維。
環境によって物性が変化するという。
いまだ医療の現場にとどまっているものの、
スマート・シャツは繊維に編み込まれたセンサーが
常に心拍数、呼吸回数や体温などを感知。
Tシャツの下部に取り付けられたプロセッサーのおかげで
これらのデータは衛星や携帯電話などで送信できる。


いかがでしたか。あなたの周りに、
袖に「インテル、編んでる」というマークが入ったTシャツを着ている人がいたら、
マイクロ・モバイル・プロセッサーを通して誰かと通信しているかも知れない……。


参考文献:
シャルロット・ブリュネル著「T-SHIRT Tシャツ・ブック」、
Tシャツメーカーサイト等。



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